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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)63号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 請求の原因四、1の主張について

(一) 柄編成のために予備選針を行なうキヤリジを用いた平型編機の選針方法が本件出願当時周知の技術であつたことは当事者間に争いがない。そして、審決は、本願発明と引用周知技術とを対比判断するに当たり、柄編成において、先行する予備選針系統によつて選針し、後続する編成系統によつて編成を行なう点で両者は一致すると認定しているのであり、このことからして、審決は、引用周知技術における編成作業の内容を右のとおり認定し、それを前提に立論していることは明らかである。

ところで、前記のとおり本願発明の要旨については当事者間に争いがないが、原告は、請求の原因四、1、(一)掲記の理由により、本願発明の乙構成における編成作業の内容は審決が認定した引用周知技術におけるそれと相違することを前提として、審決は、本願発明と引用周知技術の編成作業に関する相違点を看過している旨主張し、被告は、請求の原因に対する認否及び被告の主張二、1、(一)掲記の理由により、審決には原告主張のような相違点の看過はない旨主張する。

原、被告の右主張の相違は、本願発明の乙構成における編成作業の内容についての把握ないし解釈の相違によるものであるから、以下右内容について検討し、併せて審決に原告主張の相違点の看過があるか否かについて検討する。

(二) 成立に争いのない甲第二号証の四(昭和五四年五月一六日付け手続補正書)によれば、西ドイツ国特許第五八一八九二号明細書によつて公知である平形編機の柄出装置は、編成系統と編成系統に配属された予備選針系統とを一つずつしか持つていないものであり、また、西ドイツ国特許出願公開第二〇一〇九七三号明細書によつて公知である平形編機の柄出装置は、編成系統の両端の範囲に配置された二つの予備選針系統を備えており、キヤリジの運動方向に応じてそれぞれ先行する予備選針系統が単針選針を行なうようになつているものであるが、後者の装置は、予備選針系統の数が多く、しかも、各編成系統に配属された二つの予備選針系統のうちの一つしかキヤリジの各運動方向で働かず、他方の予備選針系統がその際にただ連行されるだけで、これは柄出装置を高価にする要因であるばかりでなく、柄出装置の故障する頻度が多くなるという欠点を有しており、加えて、隣り合つた編成系統は、その間にそれぞれ二つの予備選針系統が組み込まれていなければならないので、所定の大きな間隔をおいて配置されなければならない結果、キヤリジの幅が大きくなり、延いては機械幅やキヤリジの運動行程、作業速度に不都合な影響を及ぼす欠点がある、という知見に基づき、本願発明は、キヤリジに少なくとも一つの編成系統と、この編成系統の範囲(編成系統の範囲とは、編成系統の幅の範囲、言い換えると、キヤリジの進行方向における編成系統の長さの範囲を意味することは当事者間に争いがない。)に配置され、編成作業に際して後続する編成系統のための単針選針を行なう、電磁的に制御される少なくとも一つの予備選針系統とが設けられている形式の平形編機の柄出装置を簡易化し、この柄出装置を具備した多系統式の平形編機に用いられるキヤリジの幅を著しく縮小させることを技術的課題とするものであること(前記手続補正書添付の明細書第一頁末行ないし第四頁第五行)、本願明細書の発明の詳細な説明には、右課題につき、「本発明によれば、キヤリジに予備選針系統よりも数の多い編成系統が設けられており、それぞれ先行する編成系統の範囲に配置された各予備選針系統で、キヤリジの運動方向によつて与えられた配属関係に応じて、編成作業に際して後続する編成系統又は編成作業に際して後続する複数の編成系統のうちの選択された一つのための単針選針が行なわれることによつて解決された。」(同第四頁第六ないし第一四行)と記載されていること、また、発明の詳細な説明には、本願発明の実施例に関する説明として、「両方のキヤリジの各々は三つの編成系統1、2、3を有している。これらの編成系統1、2、3の内、編成系統1、2はニツトカムで、編成系統3はトランスフアカムである。更に、各キヤリジは二つの予備選針系統ⅠとⅡとを有している。これらの予備選針系統ⅠとⅡは編成系統1と2の範囲に配置されている。図面に於てキヤリジが左へ運動させられると、予備選針系統Ⅱは後続する編成系統1による編成作業のための選針を行ない、予備選針系統Ⅰは、キヤリジが反対の方向、すなわち右へ運動する間に行なわれる編成系統1による編成作業のための選針を行なう。キヤリジが反対の方向、すなわち図面で見て右へ運動させられている間に、先行する編成系統1は、キヤリジが左へ運動する間に予備選針系統Ⅰにより選針された針に作用する。このようにキヤリジが右へ運動させられる間に、予備選針系統Ⅰは後続する編成系統2のための選針を行ない、予備選針系統Ⅱはキヤリジが左へ運動させられる間に編成系統2又は編成系統3で行なわれる編成作業のための選針を行なう。従つて単針選針は、キヤリジのその都度の運動方向によつて与えられる配属関係に応じて、それぞれ先行する編成系統の範囲に配置された予備選針系統によつて行なわれる。この場合、予備選針系統による選針は編成作業に際して後続する編成系統のため又は編成作業に際して後続する複数の編成系統のうちの選択された一つのために行なわれる。図示の実施例では編成系統2と3とのいずれかが編成作業を行なうように選択可能である。」(同第六頁第四行ないし第七頁第一四行)と記載されていることが認められる。

本願発明において、乙構成における編成作業がどのような内容のものであるかについては、特許請求の範囲の記載からは必ずしも明確ではないが、発明の詳細な説明における前記記載を参酌し、さらに、編成作業がキヤリジの一方向(例えば左行)の運動のときのみに行なわれ、他方向(例えば右行)の運動のときには行なわれないものであるとすれば、「キヤリジの運動方向によつて」という文言を用いないのが通常であり、また、編成作業がキヤリジの一方向(例えば左行)の運動のときのみに行なわれ、他方向(例えば右行)の運動のときには行なわれないものであるとすれば、編成系統と予備選針系統との配属関係は常に変わらないから、殊更、「配属関係に応じて」と表現する必要はないものと考えられることからすると、乙構成における編成作業は、単に、先行する予備選針系統によつて選針し、後続する編成系統によつて編成を行なうというだけではなく、キヤリジのいずれの運動方向においても編成作業が行なわれ、かつ最後尾の予備選針系統は、キヤリジ反転後、最先端に位置する編成系統のために予備選針することをもその内容としているものと認めるのが相当である。

そして、乙構成における「編成作業に際して後続する編成系統又は編成作業に際して後続する複数の編成系統のうちの選択された一つのための単針選針が行なわれる」という点について、「後続する編成系統(中略)のための単針選針が行なわれる」前者と「後続する複数の編成系統のうちの選択された一つのための単針選針が行なわれる」後者の異同をみるのに、発明の詳細な説明における前記記載からいつても、後者の構成は、各予備選針系統による選針が後続する「複数の編成系統のうちの選択された一つ」のために行なわれるという点で前者の構成と相違するだけであつて、その他の作動には差異はないものと認めるのが相当である。

被告は、「キヤリジの運動方向によつて与えられた配属関係」といえば、キヤリジの右行あるいは左行の一方向の運動中における編成系統及び予備選針系統の配属関係についてのことであると考えるのが一般的であるとして、本願発明の特許請求の範囲にはキヤリジの反転時のことについては記載されていない旨主張するが、採用できない。

(三) 被告は、本願発明の特許請求の範囲を、請求の原因に対する認否及び被告の主張二、1、(一)記載の<1>ないし<4>のとおりに分説した上、本願発明は、編成系統と予備選針系統とが、(ⅰ)一対一のもの、及び(ⅱ)複数対複数のものであつて、編成系統の数が予備選針系統の数より多いものという、二つの発明を含み、(イ)「それぞれ先行する編成系統の範囲に配置された各予備選針系統で、キヤリジの運動方向によつて与えられた配属関係に応じて、編成作業に際して後続する編成系統のための単針選針が行なわれること」、(ロ)「それぞれ先行する編成系統の範囲に配置された各予備選針系統で、キヤリジの運動方向によつて与えられた配属関係に応じて、編成作業に際して後続する複数の編成系統のうちの選択された一つのための単針選針が行なわれること」という択一的な二つの構成から成る乙構成について(乙構成が右択一的な二つの構成から成ることについては、被告においても認めて争わないところである。)、(イ)は前記(ⅰ)の発明を、(ロ)は前記(ⅱ)の発明をそれぞれ組成する要素となつているものというべきところ、右(イ)の編成作業は引用周知技術における編成作業と一致するものである旨主張し、右主張を前提として、審決には原告主張のような相違点の看過はない旨主張する。

前掲甲第二号証の四によれば、本願発明の特許請求の範囲は前示本願発明の要旨記載のとおりであることが認められ、特許請求の範囲の前段部分には、「平形編機の柄出装置であつて、キヤリジに少なくとも一つの編成系統と、(中略)少なくとも一つの予備選針系統とが設けられている形式のものに於て、」と記載されているから、右記載のみからすると、本願発明は、編成系統と予備選針系統とがそれぞれ一つずつである場合の構成を含むものと理解される。しかし、特許請求の範囲の後段部分には、「キヤリジに予備選針系統よりも数の多い編成系統が設けられており、」と記載されており、右記載によれば、編成系統と予備選針系統とが一対一のものは本願発明には含まれないことになる。結局、特許請求の範囲の記載のみからは、本願発明は、キヤリジに予備選針系統よりも数の多い編成系統を設けた構成のものに限られるのか、あるいは両者が一対一のものを含むかについては明確であるとはいい難い。

右のように特許請求の範囲の記載の意味を文言そのものによつて確定できない場合には、明細書の発明の詳細な説明に記載されている当該発明の技術的課題、右課題解決のための技術手段としての構成、当該発明の作用効果並びに図面、さらには、明細書の特許請求の範囲の記載について一般に用いられている方法等を総合的に参酌して、客観的合理的に解釈するのが相当であるから、右見地に立つて、本願発明は編成系統と予備選針系統とが一つずつのものを含むか否かについて検討する。

(1) 本願明細書の発明の詳細な説明に記載されている本願発明の技術的課題及び右課題解決のための技術手段としての構成は前記(二)項に認定のとおりである。そして、前掲甲第二号証の四によれば、本願明細書には本願発明の作用効果について、「本発明によつては多系統式の平形編機に於ける予備選針系統の数が著しく減少させられる。又予備選針系統がそれに配属された編成系統ではない編成系統の範囲に配属され得るので、編成系統の間の間隔を詰めることによつてキヤリジの幅を著しく縮小させることができる。従つて製作費用は削減され、故障の惧れは極めて少なくなる。本発明の主要な別の利点は、少なくとも一つの予備選針系統が複数の編成系統に配属されており、編成系統に対する予備選針系統の比が一より小さくなることである。」(前記手続補正書添付の明細書第四頁第一五行ないし第五頁第五行)と記載されていること、発明の詳細な説明に本願発明の唯一の実施例として記載されているものは、編成系統と予備選針系統とが三対二のものであること(同第六頁第四行ないし第七頁第一七行。別紙図面参照)が認められる。

なお、前掲甲第二号証の四及び成立に争いのない甲第二号証の一ないし三(本件特許願書、同願書添付の明細書及び図面)によれば、本件特許出願当初の明細書及び図面には、編成系統と予備選針系統とが一対一のものが本願発明の一実施例として記載されていたが(右明細書第六頁第一四ないし第一八行及び第4図参照)、昭和五四年五月一六日付け手続補正により右構成の実施例については明細書の記載から削除されていることが認められる。

(2) 特許請求の範囲の記載方法として、出願に係る発明と、従来技術あるいは上位概念などの前提部分との関係を示すために、「において」(あるいは「に於て」)という表現形式を用いて、「において」(あるいは「に於て」)で結ぶ文節に前提部分を記載し、「において」(あるいは「に於て」)の後に当該発明の特徴部分を記載する手法が本件出願前より存することは、当裁判所に顕著な事実であり、右前提部分と特徴部分とは結合して一つの特許請求の範囲を組成するものと一般に解されている。

以上説示したところを総合すると、本願発明の特許請求の範囲の記載のうち「平形編機の柄出装置であつて、(中略)、形式のものに於て、」までが前提部分であり、その後の部分が本願発明の特徴部分と目し得るものであつて、右両部分が結合して一つの発明を構成しているものとみられるが、編成系統と予備選針系統との数的関係についても、キヤリジに予備選針系統よりも数の多い編成系統が設けられているという構成(甲構成)にその特徴が存するものと解するのが相当であり、右前提部分に「キヤリジに少なくとも一つの編成系統と、(中略)少なくとも一つの予備選針系統とが設けられている形式のものに於て、」と記載されていることに依拠して、本願発明は、編成系統と予備選針系統とが一対一である構成を含むものであると解することは相当ではないというべきである。

被告主張のように、本願発明の特許請求の範囲を、請求の原因に対する認否及び被告の主張二、1、(一)記載の<1>ないし<4>のとおりに分説し、構成要件<1>は編成系統、予備選針系統がそれぞれ一つであることを、構成要件<2>は編成系統が予備選針系統の数よりも多く、予備選針系統も複数であることをそれぞれ示していると解することは、文理的にいつても妥当なものとは認め難い。

そうすると、本願発明は編成系統と予備選針系統とが一対一のものを含むことを前提とし、乙構成のうちの前記(イ)の編成作業は引用周知技術のそれと一致する旨の被告の主張は理由がなく、したがつて、右主張に基づいて審決には原告主張の相違点の看過はないとする主張もまた理由がないものといわざるを得ない。

なお、被告は、編成系統と予備選針系統とが一対一のものと、二対一のものとの各作動は、二対一のものは編成系統にトランスフアーカムが加わつている点で異なるだけで両者は基本的に同じである旨主張するが、トランスフアーカムが加わることによつて複雑な柄出が可能であることは技術的に自明のことであり、また、前記説示したところからしても、右両者の作動が基本的に同一であるからといつて、そのことにより本願発明には編成系統と予備選針系統とが一対一のものも含まれるものと解すべき余地はないものというべきである。

(四) 以上のとおりであつて、本願発明と引用周知技術とは、柄編成において、先行する予備選針系統によつて選針し、後続する編成系統によつて編成を行なう点で一致するとした審決は、本願発明における編成作業の内容を誤認し、本願発明と引用周知技術間の編成作業に関する相違点を看過したものといわざるを得ない。

2 同2の主張について

本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の作用効果について前記認定のとおりの記載が存するが、本願発明においては、予備選針系統を編成系統の範囲に配置し、しかも、乙構成を採用したことにより、キヤリジの幅を狭くするとともに、キヤリジのいずれの運動方向においても編成作業を行なうことができるようにしてその効率を向上せしめたものであり、また、甲構成を採用したことにより、一つの予備選針系統が複数の編成系統のために選択的に予備選針することも可能であり、例えば、複数の編成系統のうちの一つを編成形成用カムとし、他を目移し用カムとして構成すれば、複雑な柄出が得られるという作用効果を奏するものであると認められる。

審決が、本願発明の奏する右格別の作用効果を看過していることは、その説示内容から明らかである。

被告は、昭和三九年特許出願公告第四〇二〇号公報記載の発明を根拠に、乙構成のもたらす前記作用効果は本願発明に特有のものではない旨主張する。

しかしながら、成立に争いのない乙第一号証によれば、右公報記載の発明(名称「編機の選針装置付キヤリツジ」)は、予備選針系統がキヤリジ反転後の編成系統のために予備選針することをもその内容とするものではないから、被告の右主張は採用できない。

以上のとおり、審決は、本願発明における編成作業の内容を誤認して、本願発明と引用周知技術との間の編成作業に関する相違点を看過し、さらに、本願発明の奏する格別の作用効果を看過したものであり、これらは審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を正当としてこれを認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

平形編機の柄出装置であつて、キヤリジに少なくとも一つの編成系統と、この編成系統の範囲に配置され、編成作業に際して後続する編成系統のための単針選針を行なう、電磁的に制御される少なくとも一つの予備選針系統とが設けられている形式のものに於て、キヤリジに予備選針系統よりも数の多い編成系統が設けられており、それぞれ先行する編成系統の範囲に配置された各予備選針系統で、キヤリジの運動方向によつて与えられた配属関係に応じて、編成作業に際して後続する編成系統又は編成作業に際して後続する複数の編成系統のうちの選択された一つのための単針選針が行なわれることを特徴とする、平形編機の柄出装置。(別紙図面参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面

<省略>

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